ベイトフィネス機を選ぶ時に気になるのはやはり、
「どれくらい軽いルアーをキャストできるか?」
という点。
より軽いルアーをなるべく小さいモーションでキャストできると戦略の幅が広がるというもの。
この点について、最も影響が大きいと思われるファクターがスプールの慣性モーメント。
慣性モーメントとは、以下のように定義されている。
止まっている物体を「回転運動」させようとするときの動かしにくさ、あるいは回転している物体の止まりにくさを表す指標として使われます。
出典:ホソカワミクロン
つまり、スプールの慣性モーメントが小さければ小さいほどより軽いルアーの運動エネルギーで回転させる事ができる→軽いルアーが投げられる、という事になる。
という事で今回は、手持ちのベイトフィネス機のスプールの慣性モーメントを調べてみようと思う。
慣性モーメントの調べ方
慣性モーメントの計算はちゃんとやろうとしたら結構大変なのだが、3DCADを活用する事で簡単に求める事ができる。
これは22アルデバランBFSのスプールをFUSION360で描いたもの。これにアルミニウムやステンレスといった素材の情報を設定すると、自動的に質量と慣性モーメントが算出される、といった仕組み。
スプール重量は6.828g、慣性モーメントは430.594g・mm^2となっている。
スプールの慣性モーメント一覧
とりあえず調べたものを並べてみるとこんな感じ。
【スプール慣性モーメント一覧表】
リール名 | スプール外径
(mm) |
スプール重量
(実測値)(g) |
スプール重量
(3Dモデル)(g) |
慣性モーメント
(g・mm^2) |
22アルデバランBFS | 29.5 | 6.6 | 6.8 | 430 |
シルバークリークエアTW | 28 | 8.7 | 7.8 | 477 |
Kastking Kestrel | 28 | 5.3 | 5.4 | 422 |
Soloking Acura | 30 | 6.6 | 6.4 | 527 |
DKS51 | 29.5 | 7.9 | 8.0 | 554 |
CW10L | 36.8 | 18.1 | 18.8 | 1625 |
20アルファスAIR TW | 28 | 8.1 | 8.0 | 383 |
17カルカッタコンクエストBFS | 32 | 7.8 | 8.0 | 602 |
AKS150L | 34 | 9.0 | 9.2 | 1186 |
ROXANI BF8 | 33 | 15.5 | 15.2 | 1166 |
Alphas SV TW 800S | 32 | 12.7 | 12.9 | 921 |
Millionaire CTSV | 30 | 9.5 | 9.6 | 547 |
RCS CT SV700S | 30 | 9.8 | 9.7 | 638 |
HISTAR AURORA AIR | 27.9 | 4.4 | 4.25 | 238 |
数値だけで見るとスプール径、重量共に最小のカストキングのKestrelが422で1番慣性モーメントが小さい。→アルファスAIR TWを追加してみたらアルファスが1番だった。→HISTAR AURORA AIRが記録更新しました。
22アルデバランのスプールはKestrelより外径、重量共に大きいが、慣性モーメントはほぼ変わらない数値を叩き出している。
スプールシャフトの慣性モーメントは殆ど関係ない
慣性モーメントは直径の二乗に比例する為、2倍細いものは4倍慣性モーメントが小さくなる。
φ30mmのスプールに対してφ3mmのシャフトの直径は10分の1なので、慣性モーメントでいうと100分の1となる。
22アルデバランBFSはシャフト材質がステンレス且つ長いので見かけ重量は重いが、シャフトの慣性モーメントは全体からしたら1%も無い。
リール名 | シャフト重量 | シャフトの慣性モーメント | 総慣性モーメント |
22アルデバランBFS | 2.65g | 2.59 | 430 |
Kastking Kestrel | 0.89g | 1.45 | 422 |
ラインの影響
22アルデバランBFSにナイロンラインを50m巻いた状態でのラインの慣性モーメントは182.8g・mm^2だった。
1号50mだとスプールの慣性の約半分くらい。もし2号を50m巻いたら388g・mm^2と、スプール分に近い慣性モーメントとなる。
これを見るとラインの量を適切にする事の大切さがわかる。
糸巻面の径との関係性
直径が小さければ小さいほど慣性モーメントが小さくなるのならラインを極端に少なく巻けば良いはず・・・なのだが、スプールの形状によってはそうとも限らない。
ラインが少なくなると糸巻面の直径が小さくなるので、その分スプールの回転数が増える。スプールの回転数は円周の長さに比例するので、糸巻面の直径と回転速度は比例関係にある。従って、フルにラインを巻いてある時の回転速度と少なくなった場合の回転速度の比は、
回転速度比=(フルの時の糸巻面径÷少なくなった時の糸巻面径)
となる。
回転体の運動エネルギーは慣性モーメントをI、角速度をωとすると、
運動エネルギー=1/2Iω^2
で表す事ができるので、その点を踏まえて計算してみるとこんな感じになるのではないだろうか。↓
【例:ファントムマグサーボGS-5の場合】
糸巻量 | 糸巻き面の径 | 総重量 | 慣性モーメント | 回転速度(フル=1) | 運動エネルギー |
フル | 25.7mm | 27.7g | 1844g・mm^2 | 1 | 922 |
やや少な目 | 23.7mm | 26.2g | 1621g・mm^2 | =25.7÷23.7
=1.08 |
945 |
少な目 | 15.7mm | 21.9g | 1182g・mm^2 | =25.7÷15.7
=1.64 |
1589 |
かなり少な目 | 11.7mm | 20.6g | 1117g・mm^2 | =25.7÷11.7
=2.20 |
2703 |
ゼロ | 9.7mm | 20.1g | 1105g・mm^2 | =25.7÷9.7
=2.65 |
3879 |
ラインキャパシティの多いリールでラインが少なくなってくるとラインの出が悪くなる、という現象はこれで説明がつくように思う。
更にマグネットブレーキの場合は回転速度にブレーキ力が比例するので、糸巻量が減る→回転速度が上がる→ブレーキ強くなる→よりラインの放出が抑えられる、といった流れになる。
じゃあベイトフィネスリールにも多く巻いたらいいのか・・・?というと実はそうはならない。
【例:アルファスAIR TWの場合】
糸巻量 | 糸巻き面の径 | 総重量 | 慣性モーメント | 回転速度(フル=1) | 運動エネルギー |
フル | 26.8mm | 11.7g | 934g・mm^2 | 1 | 467 |
少な目 | 24.8mm | 10.0g | 658g・mm^2 | =26.8÷24.8
=1.08 |
383 |
かなり少な目 | 22.8mm | 8.5g | 445g・mm^2 | =26.8÷22.8
=1.18 |
309 |
ゼロ | 22.2mm | 8.0g | 383g・mm^2 | =26.8÷22.2
=1.21 |
280 |
アルファスAIR TWの場合は糸巻量を減らせば減らすほど有利な方向になっている。
浅溝なので糸巻量の差による糸巻面の径の変化が小さい事から、速度比も小さくなり、その影響が小さくなるのが理由かと思われる。
投げて比較してみた結果
アルファスエアとシルバークリークと22アルデバランとKestrelの投げ比べをしてみた動画がコレ。
キャスト比較結果
リール | Dコンタクト(4.5g) | Air Beetle(2.2g) | スプーン(1.0g) |
22アルデバランBFS | 25.0m | 16.1m | 15.6m |
Kastking Kestrel | 24.1m | 15.6m | 15.8m |
シルバークリークエア | 23.9m | 14.5m | 15.8m |
アルファスエアTW | 24.8m | 16.2m | 17.1m |
この4台は慣性モーメントが近い数値なので、結構近い飛距離とキャストフィールだった。ここまで近いとブレーキ特性やベアリングの滑らかさなどの影響も大きくなってくると思うが、基本的に慣性モーメントが500弱=1g台がキャストできる、といった感じの認識で良いのではないかと思う。
一方で、極端な例ではあるものの慣性モーメント1625の格安リール、CW10Lを使ってみた時の様子がコレ↓
キャスト自体は3g~可能なイメージだが、実用では4g~といった印象。慣性モーメントとスプールの立ち上がりは比例関係にある事を実感する事になった。
まとめ
とりあえず今のところの自分的目安でいうとこんな感じの印象。
500以下:1g台キャスト可能
500-1000:2g台キャスト可能
1000-1500:3g台キャスト可能
1500以上:4g~
自作スプール製作の目安に活用していこうと思う。
ちなみに↓はファントムマグサーボGS-5用のスプール。計算上は22アルデバランと勝負できる慣性モーメントになっている。